現実世界とメタバースで坐禅する

2024年12月10日

副住職のメタバースでの坐禅会について、曹洞宗参禅道場の会 会報『参禅の道』仮想僧伽探訪 X 坐禅会紹介のコーナで執筆させていただきました。

以下の内容が本文になります。

参禅の道場の会 会報 『参禅の道』仮想僧伽探訪 X 坐禅会紹介「現実世界とメタバースで坐禅する」

現実世界とメタバースで坐禅する

こんにちは。祥雲寺副住職の江川正司と申します。平成8年生まれのZ世代です。駒澤大学禅学科を卒業後、大本山總持寺に1年半安居しました。上山したのは、ちょうど新型コロナウイルスが流行する直前で、パンデミックによる世界的な混乱の中、本山で過ごしていました。

祥雲寺は、愛知県と岐阜県の県境に位置する三国山のふもとにあります。不便な場所ではありますが、カモシカやイノシシが境内に現れることもあり、春にはタケノコが採れるなど、自然に囲まれた環境です。

現在、私は祥雲寺の本堂とメタバース空間の両方で坐禅会を行っています。今回は、それぞれの世界での坐禅会についてご紹介させていただきます。

現実世界からの参禅

祥雲寺の坐禅会は、令和5年4月に始まりました。月に1回の頻度で行っています。普段あまりお寺に来る機会のない若い世代にも参加してもらいたいと考え、告知はインスタグラムのみとし、参加しやすい17時開始にするなどの工夫をしています。

当日のスケジュールは以下の通りです。

17:00 挨拶・坐禅の説明
17:15 坐禅(15分)
17:30 経行(5分)
17:35 坐禅(15分)
17:50 茶話会

初めて坐禅をする方も多いため、毎回、姿勢の調え方や呼吸の調え方などを丁寧に説明することを心がけています。

今この時間を共有した人たちとのご縁を大切にしたいという思いから、坐禅の後には茶話会を開き、お茶を飲みながら感想や意見を聞いたり、禅の教えを紹介したりする交流の時間を設けています。

仕事などで忙しい日常を過ごしていると、家でゆっくりしていてもついスマートフォンを触ってしまい、「何もしない時間」を持つことはなかなか難しいものです。お寺という非日常の空間で、何もせず、ただ座る時間を楽しんでいただけたらと願っています。

メタバースからの参禅

メタバースとは、インターネット上に存在する仮想空間のことです。私たちはアバター、つまり自分自身の分身を使ってその空間に入ります。メタバース内には他のユーザーも存在し、そこにはコミュニティや文化があります。商品を売買したり、メタバース内で働いてお金を稼ぐこともできます。

メタバースはすべて人間によって作られた世界であり、どのようなものでも創り出すことができます。活動する自分自身の姿や外見、さらには名前やアイデンティティさえも自分でデザインできます。物理的な制約から解放され、「なりたい自分」になれる世界、それがメタバースです。

メタバースも1つの社会であり、そこには独自の文化があります。音楽イベントやライブ、DJイベントなども盛んで、現実世界よりも気軽に表現や発表ができる特徴があります。

バーチャル坐禅会

私は「cluster」という日本発のメタバースサービスを使って坐禅会を行っています。clusterは高性能なパソコンやVRゴーグルがなくても、スマートフォンやタブレットで簡単に参加できる点が大きな特徴です。

バーチャル坐禅会は月1回、20時または21時開始で、約1時間のプログラムです。2022年4月に始めてから2年以上が経ち、バーチャル坐禅会をきっかけに、現実世界の坐禅会にも参加してくれた方もいます。

内容は、まず坐禅の説明を行い、初心者の方にも分かりやすく解説した後、10分間坐ってもらいます。その後は「煩悩」や「仏像」、季節の話題など、テーマを決めてお話をします。最後にもう一度10分坐り、記念撮影をして解散します。

VRゴーグルで参加する方は、装着したまま坐禅を行い、PCやスマートフォンの方は画面を見ながら坐ります。VRの場合は、現実世界での自分の動きと連動して、アバターも坐ります。

VRゴーグルを被って坐禅ができるのか、最初は私自身も不安でした。しかし実際に行ってみると問題はなく、むしろVR空間の方が集中しやすいという声もあります。通知や画面から切り離されることで、ある意味デジタルデトックスにもなります。

お坊さんがメタバースに参加する

坐禅会の開催だけでなく、僧侶のアバターとしてメタバース内のイベントや交流の場に参加することも大切にしています。他のワールドに遊びに行ったり、イベントに参加したりする中で、そこから坐禅会につながるご縁や、仏教に興味を持ってもらえる機会も生まれています。

バーチャル山 大縁寺

2025年1月、メタバース内の仲間の協力を得て、お寺を建てました。ご縁が広がっていくことを願い、「バーチャル山 大縁寺」と名付けました。

坐禅会の会場としてだけでなく、メタバース内にお寺があったらどうなるのかを試す、実験的な意味合いもあります。実際に、毎朝6時に勤行を行う在家の方や、願掛けのような形で参拝する方も現れ、想定以上の使われ方をしています。

メタバース仏教の可能性

仏教は多様性の宗教です。インドで生まれ、日本、中国、アメリカなど、それぞれの文化や風土に合わせて展開してきました。メタバース社会においても、その世界に合った仏教や仏教文化が生まれていくと考えています。

私自身、現実世界では祥雲寺の副住職として、メタバースでは「お坊さん」として活動しています。その視点から、メタバース仏教ならではの特徴を挙げます。

対等性

メタバースでは僧侶と一般の方の距離が近く、意見を交わしながら一緒に学ぶ関係が生まれやすい環境があります。

人それぞれの信仰

仏教徒でなくても坐禅会に参加でき、信仰の形も関わり方も人それぞれです。

超宗派・超宗教・異業種とのつながり

宗派や宗教、職業を超えた交流や共同イベントが自然に生まれます。

ゆるさ

途中退室も簡単で、気軽に参加できる点が、仏教への敷居を下げています。

エンタメ性

拍手や演出など、現実世界とは違った形で仏教を表現できる可能性があります。

これから

現代では、お寺離れ・仏教離れが問題視されています。しかし同時に、混沌とした時代だからこそ、仏教や禅の教えを求める人がいることも事実です。

変えてはいけないものを大切にしながら、伝え方や方法を工夫し、必要としている人に届けていく。そのヒントは、メタバースでの実践の中にも多くあります。

メタバース仏教は1人では作れません。共に活動する僧侶、協力してくれる方々、イベントに参加してくれる方々、そして出会いの1つ1つの積み重ねによって形作られていくものです。

物理的な距離はあっても、人と人とのつながりによって成り立つメタバースだからこそ、ご縁を大切にしながら、現実世界にも還元していきたいと考えています。

カテゴリー

Masashi Egawa

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